TRILOGY

〈Kith〉のBMW 三部作

  • 2024.12.19
  • TEXT SHOGO JIMBO
  • PHOTOGRAPH KITH

名作コラボを量産中
フットウェアを中心に洗練されたライフスタイルを提案する Kith(キス)。NY発のブランドのその凄まじすぎるスピード感にはいつも驚かされる。今秋、〈ジョルジオ・アルマーニ〉との大々的なコラボレーションを発表したかと思いきや、その翌月には〈オーラリー〉とのコレクションが登場したり、プロモーションには、マーティン・スコセッシ監督や渡辺謙までもが出演していたりと、クリエイティブ ディレクターのロニー・ファイグの着眼点と振れ幅は突出している。そんな中、我々としては見過ごせないプロジェクトにKithとBMWのコラボレーションがある。

軸になるカラーストーリー
通常、カーブランドとのコラボ企画といえば、大袈裟になりがちだが、彼らの一環した方向性にはブレを感じさせない。その一つにカラーストーリーの設定が新旧のモデルに紐づけられているように思える。2020年の初のコラボレーションでは、80年代のBMW 3シリーズ(E30)の初代《BMW M3》に存在したシグニチャーカラー、Cinnabar Redに着目し、さりげなくエンブレムや内装にはブランドロゴのモノグラムがエンボス加工が施され、ぱっと見ただけでは識別できないであろう仕上がりに。それに続く第二弾では、《BMW・1602》の通称 “マルニ” をコンバートEVしており、我々のBMW E21のコンバートEVにも通じるプロジェクトではあるのだが、Vitality GreenというKithオリジナルカラーをBMWと開発し、ハリウッド俳優、エドワード・ノートンを起用したプロモーションを展開したりと次元が異なる。ここまで聞くと、一見、華やかにもみえるのだが、実車そのものに至っては、あくまで控えめな印象で、オーセンティックを貫き通している点に注目したい。それもこれも、ロニー・ファイグ本人の愛車としてのマインドが色濃く表現されているからなのだろう。今回、最新作として発表された3度目のコラボレーションでは、90年代を代表するBMW 3シリーズ(E36)のTechno Violetに着目し、最新の《BMW・XM》のリミテッドモデルとカーデザイナーの巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロが手かげた数少ないBMWとして知られる《BMW・M1》に手を加えている。そんなプロジェクトを放っておくわけにはいかないだろう。

The 2025 BMW XM by Kith(右), 1981 BMW M1 E26 by Ronnie Fieg(左)

名車をサンプリング
ドイツ勢の中でも〈BMW〉は異端な印象が強い。保守的なはずのドイツ車だが、常にボディスタイリングのみならず、エンジニアリングにおいても前衛的な姿勢を貫くブランドがBMWだろう。カーメーカーでありながら現代アートの分野との関係性においても、1970年代にいち早くアートカーをシリーズ化。今回の《BMW・M1》でえば、ポップアートの中心人物、アンディ・ウォーホルが参加しており、わずか23分足らずで、ボディへ大胆にペイントした1台が、そのエピソード共に今も強烈なインパクトを放っている。それと比べると今回の《1981 BMW M1 E26 by Ronnie Fieg》は、やや控えめすぎだろうか?これまでのコラボレーションと同様に、ブランドロゴがエンブレムの〈BMW〉に取って代わり、インテリアにはお馴染みのモノグラムのエンボス加工が施されている。クールではあるが、それほどインパクトはない。ただ、こっちのほうがしっくりくるのは、実際のところ、アートカーのあるライフスタイルは連想しずらいが、Kithが手がけたBMWは、日常に存在してもおかしくないようにイメージできる。例えるなら、ジャズやロックの名盤をヒップホップでカバーしたかのように、自然にプレイリストへ加えてみたくなる感じに近い。今や正真正銘のヒストリックカーとしてBMW M1は近寄りがたい存在だが、今作では、よりプロダクトとしてのリアリティを際立たせ、Kithが得意とするフットウェアの延長線上にある存在に名車を落とし込んでいる。もしもKithの三部作に続編があるのであれば、次回は〈Zシリーズ〉ではないかと予測しておこう。