TAPE JAM ’99

ベルリン発のカーコミュニティ《VHCLE》

  • 2025.5.23
  • TEXT CHRISTIAN GEUECKE
  • PHOTOGRAPH YUKO KOTETSU

懐かしくて新しい90’sな景色
気まぐれな5月の空模様。雨と寒さが続いた数日を越えて、ようやく晴れた午後。ベルリンのスケートパーク「Mellowpark」に、静かにして鮮やかに90年代の車たちが集まりはじめた。まるでミュージックビデオのワンシーンのように、スケーターとオーディエンスの間を縫うようにして、〈BMW〉をはじめ〈メルセデス・ベンツ〉や〈ポルシェ〉などのドイツ車が自然とその場に溶け込んでいく。私の愛車〈マツダ・MX-5 Miata〉までもが、その一部になっていた。これは、単なるカーミートではない。「音楽」と「ストリートカルチャー」が交差する、どこか夢のような特別な空間。『Tape Jam』は、まさにベルリンの今いちばんホットなカーカルチャーを体感できるクールなイベント。集まったのは、さまざまなストーリーを持つカーオーナーたちと、その先にある価値観やスタイル。「Tape Jam」を主催するのは、ベルリン出身のMarc Reschkeさん(31歳)。グラフィックデザイナーとして活動する一方で、幼い頃からBMXカルチャーに親しみ、今もストリートの空気感を大切にしている人物だ。きっかけは、2年半ほど前。友人たちとベルリンで見かけたクールな車を共有し合うWhatsAppグループを立ち上げたこと。それがやがて《VHCLE(ヴィークル)》というコミュニティに発展。当初は裏庭に35人ほどの仲間と愛車が集まるプライベートな集まりだったそうだが、今ではポーランド、イタリア、デンマークなど国外からの参加者も集まるまでに成長。Marcさんのガレージには、〈メルセデス・ベンツ SL500〉や〈BMW M3(E36)〉、普段の足として〈ポルシェ 944〉、そして現在ストリート仕様にカスタム中の〈ポルシェ 911(964)〉など、90年代を象徴する車がずらり。幼いお子さんを育てながらも、イベント当日は参加者一人ひとりに笑顔で接し、自らパーキングスペースまで案内する姿がとても印象的だった。

「LAや日本のような、リスペクトあるカーカルチャーに惹かれています。僕たちも、そういう価値観に共鳴するブランドや仲間たちとつながっていけたらと思っています」とMarcさんは語る。

旧い「車」がつくり出すバイブス
グラフィティに囲まれた広大なスケートパークには、90年代のドイツ車たちがテーマ別に並ぶ。「Autobahn(アウトバーン)」セクションでは、ブラックでまとめられたシックな車が並び、一方で、カラフルなバスケットコートエリアにはビビッドなカラーリングの車が勢ぞろい。来場者は、初代PlayStationで『グランツーリスモ』をプレイしたり、Marcさんが手がけたポスターやカセットのミックステープ、オリジナルTシャツを手に取る。DJが流す90年代ヒップホップが、その場のバイブスをさらにリアルに引き立てていた。中でも印象的だったのが、Marcさんがイベント直前に自らラッピングを施したBTCC風〈ボルボ 850〉。それをBMXライダーたちが飛び越えるというパフォーマンスは、「Tape Jam」が単なるカーミートではなく、カーカルチャーとストリートの架け橋であることを見事に象徴していた。「Tape Jam」は年に一度の開催だが、《VHCLE》としては今年あと2回のイベントが予定されているとのこと。次はどんなテーマで、どんな空間が生まれるのか。想像するだけで心が躍る。旧車の魅力は、単なるノスタルジーに浸るだけでなく、新たなカルチャーを生み出すポテンシャルが秘められていることをMarcさんと仲間たちが手がける《VHCLE》は、しっかりと証明してくれている。

VHCLE(ヴィークル)
2023年にグラフィクデザイナーのMarc Reschkeによって設立されたドイツ・ベルリンを拠点にしたカーコミュニティを軸にしたプラットフォーム。「TAPE JAM」は年に2回開催。
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