Reload Land

ベルリンで再起動するモビリティカルチャー

  • 2025.7.23
  • TEXT CHRISTIAN GEUECKE
  • PHOTOGRAPH YUKO KOTETSU

再び動き出す。電動モビリティの兆し
大型バイクの免許を取得したのは20年以上も前のこと。たまにバイクには乗っていましたが、いつしかモーターサイクルなカルチャーからは距離を置き、車に一途になっていた。EVの時代が高速で進化していく中、バイクのことをすっかり忘れてしまっていたのでした。そんなある日、ベルリンで『Reload Land』という電動モーターサイクルにフィーチャーしたイベントの広告が目に入った。その後、偶然にもヴィンテージカーのイベントで主催者のMaxと出会い、イベントを取材することになった。ベルリンを舞台に2日間にわたって行われた電動モビリティイベント『Reload Land(リロード ランド)』は、会場がシュプレー川沿いに新設されたロケーションで、サステナブルでエキサイティングなモビリティの未来を提案するイベントだ。

会場ステージで〈ICHIBAN〉のプレゼンテーションをするIvan Zhurba氏。

モーターサイクルの未来やいかに?
まず Reload Land 会場の屋外エリアでは〈Can-Am〉や〈LiveWire〉のブランドブースが来場者を出迎えてくれる。二輪業界にカムバックした〈Can-Am〉は近未来的なデザインの電動バイクを展示。一方、もともと〈Harley-Davidson〉系列で2022年から独立した〈LiveWire〉は実用性とスタイルを融合させたラインナップを披露。テストライドが自由にできる試乗コーナーもあり、会場は早くも熱気に包まれていた。屋内空間は屋外とは対照的に暗めな演出で、インダストリアルな雰囲気が施され、ネオン管のReload Landのロゴがクールに印象づける。さまざまなプロトタイプやデザインコンセプトがずらりと並び、アートギャラリーとベルリンのナイトクラブが融合したかのような空間は異世界へのドアを開いたかのよう。例えば、〈DIEM〉という新ブランドのコンセプトバイクは、そのコンセプトは新時代の〈MV AGUSTA〉を彷彿とさせるデザインが特徴的で、イタリア、デンマーク、インド出身の3名のファウンダーで構成された非常にグローバルなチーム編成。高級感溢れる〈DIEM〉は1万ユーロを目指して発売予定。〈Volvo〉のプレミアムEVに特化した〈Polestar(ポールスター)〉は、ブランドカラーのグレーを基調としたカラーリングで、《EXÖ(エクソ)》と呼ばれるプロジェクトを公開。イベント直前の1週間前に完成されたばかりというが、スウェーデンのデザイナー Joel Wengström氏によるプロジェクトとして発表された。彼は以前、船やヨットに特化したインテリアの職人としたキャリアを築いていたが、再び大学に戻りデザインを学び直す。せっかくなら最も興味のあるモーターサイクルをデザインしようと決めたのは去年だったとのこと。そんな彼が閃いたのは、「もしも〈Polestar〉がモーターサイクルをデザインしたらどうなるか?」というコンセプトのもとに、EXÖのデザインが完成。スウェーデンの代表するサスペンションブランド〈ÖHLINS(オーリンズ)〉もプロジェクトのスポンサーになり、レーシングバイクの本格的なセットアップを実現。会場では、モーターサイクルだけに留まらず、ひときわ注目を集めていたのが、〈JP Performance〉が手がけた電動カスタムを遂げた〈VolVo〉、その名も《VOLTO(ボルト)》。〈Volvo・850〉をベースに〈Tesla〉のバッテリーとモーターユニットを搭載し、出力はなんと約1,000馬力とも! エクストリームなカスタムに度肝を抜かされました。
ステージでは、インド発の〈Ultraviolette〉がドイツで初お披露目。〈Stellantis〉〈Qualcomm〉〈TVS〉といった大手企業からバックアップを受け、1万ユーロを切るプライスでリリース予定。CEO兼コファウンダーのNarayan Subramaniam氏はドイツ本国の〈Volkswagen〉と〈トヨタ〉や〈ダイハツ〉でデザイナーの経験を積み、2016年に〈Ultraviolette〉を設立。世界展開を視野にいれた堂々としたプレゼンテーションを披露。他にもパフォーマンスバイクの〈VERGE〉をはじめ、電動スクーターの〈UNU(ウヌ)〉まで、様々なブランドが電動バイクへのユニークなアプローチを実現し、テストライドの機会を作っていた。

静寂の中に秘める本質
午後には突然の激しい雨に見舞われたものの、多くの来場者は「Silent Ride」と呼ばれるベルリン市街を巡る試乗ツアーに参加していた。私はというと、雨を避けて屋内で一息ついていたが、ほどなくして雨は止み、外ではワーゲンバスやポルシェのコンバートEVを眺めながらフライドポテトとコーヒーを楽しむ時間が訪れた。やがて「Silent Ride」の参加者たちが笑顔で戻ってくる姿を見て、不意に思ったのは——昨今のEVを巡る論争、性能やUX競争に偏りがちな議論の中で、本質を見失いかけてはいないかということ。都市と自然、日常と遊び、その境界を心地よく横断できる電動モビリティの未来が、ここには確かにあった。
『Reload Land』が提案したのは、単なるテクノロジーの進化ではなく、カルチャーとしてのモビリティ。主催者であるMaximilian Funk氏は、EVの革新性とクラシックな精神をシームレスに繋ぎながら、新しい時代のクリエイティブな移動の形を来場者に実際に体感してもらっていた。彼のような存在が、これからの電動モビリティカルチャーの中心人物になるのかもしれない。ちなみにその夜、会場ではベルリンらしいレイブイベントも開催されたそうだが、私は眠気に勝てず、早々に帰宅。来年は試乗もナイトイベントも全力で楽しもう——そんな前向きな余韻を残しながら、Reload Landの2日間は幕を閉じた。