OKUMA
ODYSSEY

ゼロカーボンな未来へ

  • 2025.6.3
  • TEXT SHOGO JIMBO
  • PHOTOGRAPH HINATO NISHITANI, TOMOHIRO MAZAWA

新たなイノーべションの発信地へ
改めてEVへの好奇心が未来につながるソリューションであることを実感できたのは、東日本大震災の復興交流イベント『OKUMA ODYSSEY』への参加だった。福島第一原発のある福島県大熊町で開催されるこの音楽フェスは、今年から「ゼロカーボンフェスティバル」も同時開催となり、我々はコンバートEVと移動式EV充電スタンド〈Mobile SS〉でブース出展する機会をいただいた。フェス全体の指揮をとるのは、音楽プロデューサーとしても知られる小林武史氏。話題のアオイヤマダをはじめ、豪華アーティスト陣が参加するフェスだが、「音楽」だけでなく「アート」や「食」にもフォーカスしており、今年で3回目の開催となる。舞台となったのは、震災後に廃校となった旧・大野小学校をリノベーションして誕生した《大熊インキュベーションセンター》。コワーキングスペースを併設し、通称“OIC”として親しまれているこの施設は、スタートアップ企業を積極的に支援する拠点。大熊町は震災後、多くの住民が町外に避難し、避難指示が解除された今も戻る人は少ない。一方、地域は新たな産業の創出にシフトしており、OICはその中心的存在となっている。今回のフェスも、そうした取り組みの一環であり、未だ先行きの見えない廃炉作業が続くこの地で、新たなイノベーションを芽吹こうとしている。

フェス会場となった通称 “OIC” こと「大熊インキュベーションセンター」。エントランス正面に我々はコンバートEVと〈Mobile SS〉をブース出展。

ゼロカーボンフェスティバル
大熊町は、福島第一原発事故を経験した町として、『2050ゼロカーボン宣言』を掲げ、原発や化石燃料に頼らない持続可能なまちづくりを目指している。そんな背景から、同時開催された「ゼロカーボンフェスティバル」では、メインステージの電力をはじめ、フードエリアを含むすべての電力が、トヨタの燃料電池車(FCEV)などのバッテリーから給電されていた。出展企業の多くは、大手国内メーカーの販売ディーラーやテスラジャパンなど、サステナブルな社会を真剣に目指す団体ばかり。ドローンや水素を活用した技術開発を行う企業や、次世代の太陽光発電技術とされるペロブスカイトを研究する機関、さらには防災分野での技術を持つ企業なども目立った。我々もコンバートEVをコアにモビリティソリューションに取り組むオズモーターズと共に〈Mobile SS〉を出展。太陽光を使ったリスニングバーをminibar MIDORI と一緒にフェスのエントランスで披露させていただいた。

マキシマムからミニマムな発想へ
イベント前後の日程で、我々はコンバートEVのBMW E21と〈Mobile SS〉で福島第一原発周辺や震災資料館を巡った。震災から10年以上が経ち、復興の進展を感じる場面もあったが、一方で原発の廃炉作業はいまだ明確な見通しが立たず、重たい現実が突きつけられていることも、改めて身近に感じられた。そんな中、ふと気がついたのは、かつて都市に電力を届けていた巨大な鉄塔が、今はただの構造物としてあちこちにそびえ立っていること。試しにその麓に〈Mobile SS〉を停めてみると、わずかながら太陽光で発電をはじめた。その後、原発近くの国道沿いで見つけた「大熊SS」は、震災後に廃業したであろうガソリンスタンドだった。Google ストリートビューで調べると、数年前まではバリケードで囲まれていたようだが、今ではそれも取り払われていた。〈Mobile SS〉の“SS”は、もともとガソリンスタンドを意味する「サービスステーション」の略だが、現在は「サステナブルステーション」という新たな意味を込めている。
そんな〈Mobile SS〉を福島の地がを引き寄せたのか、原発の近くで試しに〈Mobile SS〉からBMWに充電してみた。すると、太陽光で発電した電力でコンバートEVのBMWは充電し、何事もなかったかのように走り出せた。これはとても不思議な感覚で、それと同時に心強い体験だった。その時あらためて感じたのは、「電気はつくれる」ことの面白さだろう。このヴィンテージのBMWはもともとはガソリン車で、自ら燃料をつくって走るなど考えられなかった。しかし今は、自分たちのアイデアと太陽の力によって、わずかながらでも電力を生み出して走らせることができる。そう考えると人類が生み出し、未だ制御しきれない“マキシマム”な原子力ではなく、太陽光という自然エネルギーから“ミニマム”に発電することの重要性をもっと広く訴求したい。この取り組みがすべてに置き換わるとは思ってはいないが、一人ひとりが少しでも電力を自ら発電する意識を持てば、きっと未来は変わっていくのではないだろうか。

2台の後方に福島第一原発がある。そびえ立つ鉄塔はかつては東京に電力を送っていたが、今はほとんど使われていない。〈Mobile SS〉はソーラーで発電した電力でコンバートEVのBMWを充電することができる。