素材としてのAMG
〈Mercedes AMG〉が、アメリカのアーティスト集団《MSCHF(ミスチーフ)》とまさかのコラボレーションを発表。驚きと挑発に満ちたコレクション『Not for Automotive Use』を、NYC x Design Festival(2025年5月15〜17日)にて公開した。MSCHFといえば、ネットを騒がせた巨大な「Big Red Boots」や、皮肉たっぷりのコンセプチュアルワークで知られる存在。今回のコラボでは、AMGの本物のパーツを使って、家具や照明、ファッションアイテムを大胆に提案。車としてのAMGではなく「素材」としてのAMGがテーマになっている点がポイントだろう。発表前からその動きは謎めいていたが、公開直前に〈MSCHF〉が投稿したティーザームービーでは、ハイウェイの路肩で次々とトラックの荷台から“家具と化したAMGパーツ”をそばに停めてある《Mercedes AMG・SL》の上におもむろに積み込んでいくという、まるで報道番組さながらのカーチェイス映像がSNSで話題に。「本当に AMG 公認⁉︎」と思わず疑いたくなる演出は、ここ最近のブランドコラボの中でも群を抜いてユニークな仕掛けでしょう。実際の作品も、映像に負けず劣らず、どれもインスピレーションに満ちている。たとえば、シートベルトのバックルをスイッチにした照明「SEATBELT LIGHT」や、ヘッドレスト3つを組み合わせた「HEADREST CHAIR」、AMGのホイールを丸ごと使った扇風機「WHEEL FAN」など、アイデアソースは1960年代に日用品を大胆に再構成したデザインムーブメントとして知られるイタリア・ラディカルデザインへのオマージュでもあるそう。プロダクトの中には、座ると点灯するソファ、巻き取り式のベルトが照明をオフにする仕掛けなど、機能性と遊び心が共存しているといえるだろう。
この投稿をInstagramで見る
究極な逆説を実現
AMGパーツをスキャンしたグラフィカルなTシャツやキャップなどのアパレルコレクションも登場。カーフレグランスには「Affalterbach=リンゴの木のある小川」という地名にちなんだリンゴの木型という、ちょっとしたユーモアも効いている。展示会場は〈MSCHF〉の本拠地 ブルックリン・グリーンポイントのスタジオ。普段は完全非公開の空間が初公開に。AMGのハイパフォーマンスなエンジニアリングを〈MSCHF〉の皮肉めいた実験精神でみせた両者のコラボレーションは、「走らないAMG」というある意味究極な逆説を通して、車とデザインの新たな関係性を具現化してみせたといっていいでしょう。