空飛ぶ車というより、パーソナルロケットか
《Tesla》がテキサス州にある《SpaceX》の試験施設で新型〈ロードスター〉を発表。披露されたのは、従来の発表会では考えられない光景だった。巨大なランプを吸着システムによって逆さまの状態で走行し、スラスターを噴射して空中で回転し、地上へ着地! さらに、スケートボードのトリックのように、複数台の車両を飛び越えるデモンストレーションまで披露。まるでAIが生成した映像か、SF映画のワンシーンのようだが、ライブ配信にて実際に披露されたのは間違いない。今回の〈テスラ・ロードスター〉が興味深いのは、単に驚異的なスペックを持つ電動スポーツカーを目指しているわけではないところにある。
レースの先に、宇宙がある。
自動車の歴史を振り返れば、モータースポーツこそがカーエンジニアリングを進化させる重要な役割を担ってきたのは事実だろう。ブレーキ、サスペンション、エアロダイナミクス、軽量化。サーキットで培われた技術や知見は量産車へと還元され、日常的に乗る車の性能や安全性を高めてきた。《フェラーリ》や《ポルシェ》をはじめ、モータースポーツをブランドのアイデンティティとしてきたカーメーカーにとって、レースは技術力を証明する場であると同時に、未来の車を開発するための実験場でもあった。しかし、《Tesla》が今回持ち込んでいるのは、《SpaceX》の宇宙開発技術を応用している点にある。そのひとつが「コールドガススラスター」と呼ばれる圧縮ガスを噴射し、その反作用によって推力を得る仕組み。宇宙船の姿勢制御にも通じる技術だが、従来の車がタイヤと路面の接地を前提に進化してきたのに対し、テスラは宇宙開発で培われた推進技術を持ち込み、車体の動きそのものを拡張しようとしている。おそらく発表会で披露されたデモンストレーションは、車が自由に空を飛べることを意味するわけではないかもしれないが、量産車としてどこまで実現できるか、今後の開発を待つ必要がある。それでも、ここまで宇宙開発と自動車開発の技術が共存する発想は、従来とはまるで異なる次元だろう。
ドライブすることが、マニュアルになる未来
〈ロードスター〉の性能もまた、常識を超えている。停止状態から時速60マイル(約96km/h)までの加速は1秒未満、最高速度は時速230マイル(約370km/h)超に達するという。ただし、これらは発表時点で示された数値であり、量産モデルでの実現については、今後の詳細を待つ必要がある。2017年に次世代〈ロードスター〉が初公開されてから、約9年。今回のモデルは2028年の生産開始を予定しているが、ただ、これまで幾度となく延期されてきた経緯を踏まえると、今後の開発スケジュールにも注目したい。一方、完全自動運転を目指す「フルセルフドライビング(FSD)」の開発を推し進めている《テスラ》が、人間の身体能力を遥かに超えた〈ロードスター〉を手がけている点は興味深い。移動を人間の操作から解放し、車そのものが判断して目的地へ向かう未来を目指す一方で、ドライバーが自ら操る可能性も追求している。車が自ら走るようになれば、人間が運転すること自体が、いずれマニュアル操作のような感覚になるかもしれない。移動の効率や利便性をAIに委ねる時代に、あえて自分で操るスポーツカーには、どんな価値が残されるのだろうか。「自動運転」と「運転する歓び」。その両方を追い求めるテスラの姿勢には、一見すると矛盾があるが、移動を自動化することと、人間が操ることを楽しむための技術を追求することは、必ずしも相反するものではないだろう。〈ロードスター〉が日本の公道を走る日が来るのかは、まだわからない。しかし、車の未来を考えるとき、私たちが想像すべき場所は、もはやサーキットや道路の上だけではないのかもしれない。












