世界最高峰のEVによるフォーミュラカーレース
今年で3回目を迎えた「フォーミュラE 東京大会」が日本史上初となるナイトレースとして開催。公道を封鎖して行われる都市型のレースとしても知られ、夕暮れと共にスポットライトが灯った東京ビッグサイト周辺の道路は、幻想的なサーキットへと生まれ変わった。普段は物流のトラックや一般車両が行き交う道路が、突如として世界最高峰のレースの舞台に。フォーミュラEは何度、観戦しても独特な雰囲気がある。「EVだから静かなレース」と思いがちだが、実際にコースサイドへ立つと、そのイメージは変わるだろう。アクセルを踏み込んだ瞬間に立ち上がる鋭いモーター音は、独特の高周波音を放ち、コーナー付近ではタイヤのスキール音が轟く。『F1』のようなエンジン音こそないものの、目の前を光の如く駆け抜けるマシンの加速は想像以上に迫力がある。さらに市街地コースならではの近い観戦距離と狭いコース幅も相まって、マシンの動きやドライバーの駆け引きをより身近に感じられるのが魅力だろう。
Future Tech meets Car Culture
2026年の東京GPは『2026 TDK Tokyo E-Prix』と題し、《TDK》がタイトルスポンサーを務めた。《TDK》といえば、カセットテープで世界を席巻した印象が強いが、現在は電子部品やセンサーなどを手がけるグローバルテクノロジー企業へと大きく発展。モビリティのほかにも、スマートフォンから再生可能エネルギー設備まで、私たちの暮らしを支える数多くの製品の中に、その技術が組み込まれている。フォーミュラEでは、《TDK》のテクノロジーが重要な役割を担っている。例えば《ポルシェ》が開発したレーシングカー〈ポルシェ・99X エレクトリック(GEN3 Evo)〉では、インバーターなどには、《TDK》のセンシング技術が搭載されている。インバーターはバッテリーとモーターの間で電力を精密に制御し、パワートレイン全体の高効率化と高い信頼性が求められる。そのテクノロジーは、現行のF1マシンをも凌ぐ加速性能を誇り、レースで使用するエネルギーのおよそ半分を回生ブレーキによって回収するなど、最先端の電動レーシングカーの進化を影で支えているといっていいだろう。
そもそもフォーミュラEのユニークなルールとしてあるのが、「バッテリー」と「シャシー」は全チーム共通であるということ。つまり各チームが技術力を競いあっているのは、「モーター」や「インバーター」、さらに「ソフトウェア」といった電動パワートレインの領域に限られている。そのため、フォーミュラEが他のモータースポーツと大きく異なるのは、レースの勝敗を左右する決め手が、エネルギー管理の最適化にあること。「どれだけ効率よく電気を使えるか」。加速するタイミング、回生ブレーキでいかにしてエネルギーを回収するか、レース終盤までどのようにしてバッテリーをマネジメントするかがポイントなる。その積み重ねが順位へと直結する。だからこそフォーミュラEは、自動車メーカーだけでなく、電子部品メーカーや半導体メーカーにとっても、最先端技術を磨く重要な実験の場となっている。東京GPの会場ではエンジニア志望の学生を対象とした特別プログラムも実施され、通常は立ち入ることのできないピットエリアや、オフィシャルの国際映像を世界へ配信するブロードキャスティングセンターを特別に公開。さらに、次世代モビリティをテーマとしたパネルディスカッションも開催され、レースを観戦するだけでなく、その裏側にある技術や開発現場までも体験することができた。
東京大会は、2日間にわたるダブルヘッダーで開催。レースの行方も最後まで見応えのある2日間となった。初日の土曜は、「CUPRA KIRO」のダン・ティクトゥムが、最終ラップのゴール直前で、それまで温存していたエネルギーをフル出力して逆転優勝。2位にはエネルギー残量が厳しくなり猛追を許した「Andretti」のジェイク・デニスが入り、フォーミュラEならではの極限のエネルギーマネジメントを印象づけた。一方、2日目は雨によってコンディションが大きく変化。レース終盤での赤旗中断を挟む難しい展開の中で、「Mahindra」のニック・デ・フリースが勝利を飾った。シーズンを通してタイトル争いを繰り広げている「Jaguar TCS Racing」と「Porsche Formula E Team」も激しいポイント争いを続ける一方、日本の「日産フォーミュラEチーム」はホームレースでの巻き返しを狙ったものの、思うような結果を残すことはできなかった。
東京大会を終え、チャンピオンシップの行方は最終戦ロンドンへ持ち越されることとなる。そして、その先にはさらに大きな変化が待っている。来シーズンからは、新世代マシン「GEN4」の投入が予定されている。出力や効率、回生性能などあらゆる面で進化し、フォーミュラEは新たなステージへ進もうとしている。レースで磨かれた技術は、近い将来、市販車へと投入される日がくるだろう。私たちが日常で乗るEVやハイブリッド車に搭載されるセンサーや制御技術の多くは、こうした開発の積み重ねによって生まれている。東京GPは、単なるレースイベントというより、世界最先端のモビリティ技術が集い、その未来をいち早く体感できる場所でもある。来年もまた、ここ東京で、GEN4マシンがどのようなレースを見せてくれるのか。そして、その進化の裏側で、《TDK》をはじめとする日本の技術がどのような役割を果たしているのか。そんな視点で観戦してみると、フォーミュラEがこれまでとは少し違った景色に見えてくるはずだ。

フォーミュラEの次世代マシン「GEN4」は、最高速度335km/h以上を発揮し、0-100km/h加速は約1.8秒と、現行F1マシンをも上回る驚異的な俊敏性を誇り、高い環境性能を備えた革新的な電動フォーミュラカー。


















