古典技法をクルマに乗せて
porriM(ポリム)という名の福岡を拠点とする写真作家ユニットがいる。もともと美大生時代に知り合った稲葉知洋さんと岩根亮太さんの弱冠24歳の2人組みは、写真科を専攻し共に写真に対する考え方が近かったことから、さらなる本質を追求すべく、実験的な取り組みを開始。当初はお互いの写真でフォトブックを制作していたそうだが、とある海辺での撮影の帰り道。対向車線のすれ違ったキャンピングカーをみて、衝撃が走ったとporriM主宰の稲葉さんは話す。キャンピングカーが、“動くカメラ・オブスクラ”に見えたというのだ。
カメラ・オブスクラとは、その昔、真っ暗闇の部屋の壁に、壁に空いた小さな穴から入った光が、外の風景を逆さまに投影したことから見つかった光学的原理のこと。カメラの由来ともいわれ、この原理を縮小したのがピンホールカメラとよばれる古典的な撮影技法。そんな古典技法を、すれ違ったキャンピングカーをみて、クルマをピンホールカメラにするアイデアを思いついたというから驚きだ。
クルマはカメラにできるのか?
2人はすぐにプラ段を使って150cm角のピンホールカメラの試作でテストを開始。すると思いの外、簡単に像が映ることを確認。そうとなれば、ベースとなるクルマ探しをはじめるべく、クルマに詳しい知人を頼りにカメラに求められる特性を話して候補を絞り出していくと、密閉性に優れる冷蔵車がよいことが判明。すぐさま稲葉さんは愛車を手放し、鮮魚店で使われていた冷蔵車の軽トラを見つけて購入。急展開ではじまった彼らのピンホールカメラのクルマ作りではあったが、予想だにしない試練と発見の連続がはじまる。では、その模様をスライドショーよりご覧いただきたい。
写真に魅了される訳
完成したピンホールカメラのクルマを彼らは「Pinhole Kuruma」と命名。撮影は2人の共同作業で行われる。まず1人は車外でシャッターを切る役目。もう1人は、Pinhole Kurumaの暗室内での作業を担当する。その暗室は、赤い光が灯った一般的な暗室とは異なり完全なる闇。そのため1回の撮影を行うために1時間近くセットアップの時間を要する。それもそのはず、暗闇の中で49枚のポラロイドフィルムを均等に並べる作業は、想像以上に難易度が高い。例えば、夏場での撮影時は、高温な車内で酸欠になりつつも、真夏の強烈な日差しで映し出される鮮明な像を思い描いて執念の撮影を敢行するという。そんな手間暇とは裏腹に、Pinhole Kurumaでどういった被写体を撮影するかはさほど興味がなく、それよりもシャッターを切ったその瞬間を写真という物質に変換できる点に魅了されているという。それ故、彼らにとってその時を刻んだフィルムを引き伸ばしたり、複写して表現することには抵抗があり、”撮れたて”の写真こそがフォトグラフィーの本質とみている。そういった意味でもPinhole Kurumaで映し出される写真は、porriMの2人が探しも求めていたフォトグラフィーの本質を体現する名機となったといえる。
poriiM初となるエキシビジョン『HASHIRUNDESU』では、Pinhole Kurumaのアイデアが生まれるまでのストーリーを軸に、これまでの作品をアーカイブ。会場となった「虚屯(うろたむろ)」は、昨年12月に福岡にオープンしたばかりのセレクトショップ「君の好きな花」とイベントギャラリースペース、シェアオフィスを併設するビル。オープン間もない頃に稲葉さんがお店を訪れ、他愛ない話をきっかけに、その日のうちに今回の展示が決まったとのこと。その持ち前のスピード感と勢いを感じさせる彼らと共に、新たなモビリティ像を紹介できる日が来ることを期待したい。
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porriM
1st Exhibition|HASHIRUNDESU
2020.2.13 (Thur) – 19 (Wed)
open 13:00 – 19:00
at 君の好きな花
福岡市中央区平尾3-17-13
Special Thanks:Kiminosukinahana, Keitaro Hamakado, Teruhisa Sakai, Suenaga Sadaharu