Think
Small

小さくて大きな存在

  • 2019.1.18
  • TEXT SHOGO JIMBO
  • PHOTOGRAPH MIE NISHIGORI

クルマとバイクの間
日本はスモールカー大国である。軽自動車を筆頭に、スモールカーが日本列島を所狭しと走っている。ただ、これから登場するクルマは軽自動車よりもさらに小さく、タイヤが1つ少ない。つまり3輪。さらに付け加えておくとスピードがだいぶ遅い・・・
そんなクルマをどうやって使うの?と思われるかもしれないが、我々は歴としたクリエイティブな働くクルマとしてみている。そのクルマは『ピアジオ・APE(アペ)』を台頭とする三輪ミニトラック。
ベスパでお馴染みピアジオが現在もなお生産し続けるAPEは、バイクのエンジンで駆動する三輪ミニトラックだ。かつて戦後まもない頃、日本でもオート三輪と呼ばれ長く親しまれていた車種だが、軽トラックの登場により国内ではほとんどみかけることはなくなった。そんな3輪ミニトラックに、我々が目をつけたのはその類い稀な小さなサイズと、限られたスペースにこそ生まれるクリエイティビティの底力。一般的にみて、働くクルマともなれば、積載能力が優れた大きなトラックの方が有利なはず。例えば、フードカートともなれば、厨房スペースを考えても広いほうが良い。しかし、旅慣れた旅行者の荷物が少ないように、モバイルすることを前提とするなら、必ずしもクルマは大きいほうが良いわけではない。そして、そんな三輪ミニトラックを選ぶオーナーは、決まってクルマのキャラクターにも負けないユニークなプロジェクトに挑む方々。では、幸運にも我々が手がけた3輪ミニトラックをもとに紹介しよう。

MOBILE WINE STAND
オンラインを中心にナチュラルワインを販売する『HUMAN NATURE』は、ワインのデリバリーをはじめ、イベント等への出店にむけてピアジオ・APEを導入。中野区にある古民家のガレージをリノベーションした専用ワインセラーには店主の高橋心一さんがセレクトしたナチュラルワインがずらりと並ぶ。ワインセラーの前を大柄な高橋さんが出入りして2ストのAPEでトコトコと走り去る様は、どこかイタリアの路地裏を彷彿とさせる。週末のファーマーズマーケットでは、数ある人気フードカートに比べ、APE特有の小ささが相まって、お客さんとの距離がうんと近くコミュニケーションに貢献。ワインという敷居の高く思われがちなドリンクをよりカジュアルに高橋さんらしく導いている。

KOMBUCHA SHIP
ハリウッドセレブに人気の話題のヘルシードリンク「コンブチャ」は、昆布茶ではなくお茶を発酵させてつくる発酵ドリンクのこと。『KOMBUCHA SHIP』は、そんなコンブチャを一から醸造する国内屈指のブランド。埼玉県川口市に構える本格的なブリュワリーと西麻布のカフェを中心に日本全国の飲食店に卸しを行う。そんな彼らも三輪ミニトラックをイベントへ出店にむけたモバイルサーバーとして導入。ベース車両として選んだのは、APEをルーツとするインド生産のBajajiを日本エレクトライクがEV化した3輪ミニトラック。正真正銘のヘルシードリンクを扱うからには、モビリティも地球に優しい100%ゼロエミッションが必要不可欠。EV化のおかげで電子制御となった駆動系の効果もあって転倒の心配はご無用。家庭用100vで充電できる。

大は小を兼ね”ない”?
APEの歴史を調べてみると70年もの歴史を持つ(歴史の長さはポルシェに匹敵!)。コマーシャルヴィークルでこれ程の歴史をもつ車種は他になく、昨年60周年を迎えたホンダ・スーパーカブよりも古い。こんなにも長く親しまれてきた最大の理由は、絶妙なサイズ感とどこか人懐っこい生き物のようなデザイン性で、あらゆるシーンにフィットしてしまうからだろう。一方、限られたスペースと小排気量の馬力を考えると、効率的な使い方が絶対不可欠。そういった意味でもフットワークを軽く使うためには、クルマでなく、むしろ乗り手が進化してきたともいえるだろう。また冒頭で述べたスピードについて補足しておくと、路上ではどんなクルマよりもスロースピード。だが駐車した瞬間から人を惹きつけてしまう底知れない“馬力”を秘めていたりする。そんなキャラクターを生かして、今後まだ誰も知らないコンセプトを掲げた三輪ミニトラックが世にお目見えすることを期待したい。最後の2枚の画像は、モペッドショップ「ピークスモペッズ」に全面協力を得てカスタムしたヴィンテージAPEもぜひ参考にしてみてほしい。