タクシー行灯って何?
飲んだ帰りの夜更けなどにタクシーを探すとき、目印にするのは屋根の上に灯されるランプではないだろうか?それがまさしく行灯(あんどん)、タクシーをTAXIたらしめるシンボルである。昨今、高級感を意識したブラックキャブが急増しており、タクシーは全て同じに見えるかもしれない。しかし、よく見ると行灯は会社ごとにデザインが凝っており、タクシー会社のアイデンティティを最も垣間見ることができるアイテムといっても過言ではない。今回は、そんな行灯を作り続けて60年、東京都港区南麻布に本社を構える<武内工業所>へ潜入取材を敢行!
ルーツは防犯灯
今日において、タクシーにとっては当たり前とさえなっている行灯。しかし、ルーツを辿ると昭和20年代、タクシー強盗が横行した頃にドライバーの身を守るために“防犯灯”として開発された。その機能は今でも残っており、緊急時はコクピットのボタン1つで赤く点滅させることができる(もし見かけたら迷わず110番!)。そんな防犯灯として生まれた行灯に「社名を入れてみては?」と閃いたアイディアマンが武内工業所の先代社長、武内金弥氏。現在でも国内で圧倒的シェアを誇り、普段、何気なく目にしているタクシーの行灯のほとんどは “made by 武内” と言っていいだろう。そしてTAXI BOYも驚きだったのが、行灯は全て職人の手作業で組み立てられていること。一つ一つ丁寧に時間をかけて、アッセンブリーされている。では、その模様をご覧いただこう。
次第に見たことあるフォルムへ
行灯の制作は、型抜きされた各パーツがバラバラのまま南麻布の本社に集まる。それらを組み立て接着する作業がはじまり、無垢だった各パーツたちが次第に行灯らしき姿に変わっていく様子は愛おしさすら感じてしまう。
デジタルとハンドクラフト
続いて次なる作業場ではカッティングシートの出力作業が行われる。PCで作成されたデザインデータがプリンターからカッティングシートとして吐き出され、職人の見事な手さばきで浮かび上がって行く。必要な部分だけを残し、不要なパーツはピンセットで取り除く。「無線」の文字は字画が多く、至極、細かくて大変そう。
次世代タクシーにも
下ごしらえされたシートを、いよいよ行灯に貼り付け。こちらは武内工業所、渾身の最新作。東京モーターショーでもお披露目された次世代タクシー「TOYOTA JPN TAXI」専用設計の行灯である。どこかレトロな雰囲気を醸し出す丸っこいデザインがキュート。やや大きめなサイズで、街中での視認性も抜群。
見えない箇所に秘密あり
最新モデルの行灯が遂に完成!せっかくなのでDRIVETHRUのサービスカーに載せてみると、なんとも相性抜群!このまま付けて帰っちゃおうかしら?ちなみにタクシーは高速道路も走るので、行灯は天井に接着剤でしっかりと固定される。接着剤といっても市販のものではなく、武内工業所秘伝の専用接着剤が存在し、それがあまりにも強力すぎて、剥がし取るときは行灯が壊れてしまうこともしばしばとのこと。
工具に歴史あり!
行灯の制作フローを一通り見学した後は、工場の中を案内いただいた。中でも驚いたのが、廊下の壁に歴代の職人が使用していたオリジナルの特殊工具がずらり。どういった使い方をするのかは見当もつかないが、彼らが今日までの行灯を生み出していたのかと思うとなんとも感慨深い。ありがとう、工具たち。
でんでん虫はインスタ映え
こちらは個人タクシーの行灯。その形状から「でんでん虫」の愛称で親しまれている。シルクスクリーンでペイントされた印字を乾かしている最中だが、こんなにフォトジェニックな光景を目の当たりにしたのは久しぶり!ちなみにTAXIBOYは同一モデルの行灯を某オークションにて4,000円で購入、現在もリビングに飾っているほどのでんでん虫フリークである。
東京無線の歴史が行灯に集約
行灯も時代を経て改良を重ねられる。こちらは東京タワーのモチーフでお馴染み東京無線のもの。左から順に歴代のモデルが並んでいる。実はどんどんコンパクトになっているのがお分かりいただけるだろうか?都内には“行灯殺し”と言われる天井が非常に低いガード下がいくつか存在し、そこを通過するためにアップデートを繰り返してきたとのこと。一番右側のモデルの装着率が圧倒的に高いのだが、いまでも一番古いタイプを付けている粋なタクシーも存在する。ちなみに次世代タクシー用に産まれた最新モデルは画像左下。東京無線のコーポレートカラーのグリーンを配色。是非とも街中で探し出してみてほしい。
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