RoundCat Rally

〈ラウンドキャット〉と巡る日本再発見の旅

  • 2025.11.27
  • TEXT SHOGO JIMBO
  • PHOTOGRAPH CHRISTOFFER RUDQUIST, LANE SKELTON

クリエイティブマインドなラリー
Rally という言葉には特別な響きがある。壮大な距離をスペシャルなマシンで駆け抜けていくようなイメージだが、『RoundCat Rally(ラウンドキャットラリー)』は少し毛色が異なる。グローバルなカーカルチャーで活躍するアーティストやインフルエンサーたちが、あえて日本の田舎道を選んで、軽自動車をはじめとした国産車でのんびりと走る。それが「RoundCat Rally」。単なるツーリングというわけではなく、日本のローカル文化を再発見できる稀有なイベントとして、今、注目を集めている。2019年にスタートした「RoundCat Rally」は、ファウンダーでありオーガナイザーのクラーク・ソッパーが、日本のものづくりを紐解くべく、毎回、ゲストを惹きつけるプログラムを用意している。中でもクラークが重視しているのは、日本独自のクリエイティブマインドにある。クラフトマンシップが息づく伝統工芸から、最先端のテクノロジーが宿るプロダクトまで、幅広く日本のデザインに触れる機会を積極的に発信している。エントラントにはオリジナルのトラベルアイテムが用意されている他、各エントリー車両には、ポップでキュートなグラフィカルが特徴的な専用デカールが施されている。そんなクリエイティビティの高いラリーで、2025年の舞台に選ばれたのは「東北」。栃木県・日光をスタートし、宮城・仙台を目指し、約5日間で走り抜けるルートが設定されている。そのプログラムの中でもハイライトとなったのが、国内唯一の製造拠点となる《カシオ》の山形工場でのファクトリーツアー。我々はスケジュールの都合もあり、カシオの山形工場から合流して、特別に1日のみ参加させてもらった。たった1日ではあったが、その魅力を十分に味わうことができたといっていいだろう。

まず RoundCat Rally に参加するにあたり、どの車で臨むべきか迷っていたところ、たまたまローダウンにカスタムされた《ホンダ・e》に出会った。オーナーは一度だけお会いしことがあった方だが、企画の趣旨をお伝えしたところ、すぐに快諾を得て、いざ東北へ。日頃、最新のEVモデルを試乗する機会が増す一方で、発売から数年が経ち、今や〈ホンダ・e〉はリアルな型落ちEVとして、長距離で試すにはベストタイミング。80年代のホンダデザインを彷彿とさせるワンオフのカスタムホイールがクールな〈ホンダ・e〉がDRIVETHRU®初のラリー参戦車両となった。ドライバーはディレクター神保匠吾と〈minibar MIDORI〉の田中栞。
まず我々が目指したのはラリー参加者たちが待つカシオの山形工場へ。都内からおよそ400キロの距離だが、念の為、朝5時に都内を出発し、東北道をひたすら北上しはじめたのだが、早々に予想外な事態が発生。東北道のサービスエリアで急速充電しようにも先客がいたり、工事による使用不可などが立て続けにあり、気がつけばバッテリー残量が1桁台に陥る場面を早々に体験。その後、東北になるにつれて充電スポットが少なめな印象を受け、急速充電器があれば、早めに立ち寄る作戦に切り替え、若干の遅れはあったものの、なんとか山形工場に辿りつくことができた。山形工場はカシオ唯一の生産工場とあって「G-SHOCK」のハイエンドモデルが生産されており、緻密な工程を専門の職人たちによる手仕事と、3.11のような巨大地震が起きてもフロア自体が免震構造になっているため、精密部品であっても24時間休むことなく自動で組み立てることができるようになっている。ラリーのエントラントとは、現地で初めてお会いする方がほとんどだったが、車のカスタムに長けた参加者たちが、いたく《カシオ》のものづくりに対する姿勢に感心する様子は印象的だった。その後、山形を後に仙台市内まで、10数台のマシンで山道をドライブ。RoundCatの名が示すように、コンパクトな国産車が等間隔に連なって峠道を小気味よく走る姿は、まるで猫が軽快に走り回ってるような光景だった。

仙台市内につくと、夕食をクラークのチームと共にした後、我々は再び都内を目指した。翌日に別件の取材があったため帰路を余儀なくされたのだが、そうとなれば、むしろ我々には独自に課された試練にも思えてきて、〈ホンダ・e〉で東京–東北間を1日で走破できるのか試すことが裏テーマになっていた。帰路では、「行き」とは真逆の走法を試すべく、クルーズコントロールを多用して効率的な走りに集中していた「行き」とは対照的に、できるだけ負荷のかからないアクセルワークと回生ブレーキを重ね、少しでも電費を稼ぎながら南下していった。ただ、夜間の高速ドライブは疲労と眠気が著しく、それに加えて、高電圧のCHAdeMOの急速充電機が思うように電力をチャージできない場面が目立った。そんなこともあり充電中に何度もコーヒーを飲みながら、ただ時間だけが過ぎていく印象が強かった。結局、翌朝5時に都内へ到着。約1000kmを24時間で走りきり、急速充電の回数は12回にも及んだ。達成感があったことには違いないが、もう二度と〈ホンダ・e〉でロードトリップはしまいと誓ったこともお伝えしておきたい。

《カシオ》の「G-SHOCK」の名機が〈RoundCat Rally〉とのカスタムモデルとして登場。ラリー参加者のみゲットできる。ポップなグラフィカルがグッドフィーリング。

あらためて「RoundCat Rally」の魅力について振り返ると、つい我々が見落としがちな日本独自のクリエイティブな魅力を浮き彫りにしているように思える。「漢字」や「ひらがな」に比べ、より親しみやすい「カタカナ」というグラフィックデザインをはじめ、今回でいえば、精密時計でありながら求めやすい価格帯で強靭な「G-SHOCK」を生み出した《カシオ》という日本が誇る時計ブランドの存在。それに世界に類を見ない「軽自動車」という車づくりと日本の田舎道の相性が最もわかりやすい例といえるだろう。どれも海外の感度の高い参加者たちが強く惹かれるポイントでありながら、我々、日本人がその価値を見落としてしまっている。「RoundCat Rally」は、その本質をあらためて軽やかにプレゼンテーションしてくれているように思える。そんなラリーはグッドフィーリングであったことは間違いなく、もしも次回参加するなら、どんな車でエントリーすべきか、その妄想は今も止まらないのである。

RoundCat Rally(ラウンドキャット ラリー)
2019年にクラーク・ソッパーによって設立された東京を拠点に日本各地のクリエイティブマインドを巡る新感覚なラリープログラム。グローバルで活躍するアーティストやインフルエンサーが多く参加し新たなカーカルチャーのひとつに。2026年の舞台は「北海道」のようです。
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