氏が跨り、時には塩湖を、時には理想的なワインディングを、また時には荒れた大地の上を疾走するこれらのマシンが、映像に乗って世界中を駆け巡り、木村信也氏はいまや “Shinya Kimura” として世界中に知られる存在となった。フォトジェニックなモーターサイクルを作り出すカスタムビルダーは世界中に多く存在する。しかし氏の生み出すマシン程、ヒトが跨り操ることで完結し、映像映えする造形美はないだろう。それを裏付けるかの様に、氏にマシンの製作プロセスを伺うと、まず顧客の好みやライフスタイルとともにモーターサイクルとの接し方、マシンに跨るシチュエーションのヒアリングからスタートし、人馬一体のごとくマシンを操るヒトのフォルムを含め造形へとインスピレーションを広げていくそうだ。
何かをイメージしたりデザインモチーフにすること無く、ほぼフリーハンドでいきなり鉄の塊と対峙する。そして氏の中に沸き起こる創造欲求がおぼろげなイメージから実体となり、ダイレクトに形となって現れ、それがまた氏の脳裏へとフィードバックされ徐々に完成系に近づいてゆく。
この辺の作業プロセスは氏のブログに詳しいが、深く読み込んでいくと氏が常にマシンに手を入れ直している姿が微笑ましい。まるでガウディの建築物のように “Still going on” なことがうかがえる。まさにマシンとの対話である。
「ドローイングや図面は一切描かない。描けないというのもあるけど、図面が先にあるとどうしてもそれに囚われて作業が退屈になっちゃうからね。だから、すごいのはむしろお客さんだよね。どんなバイクが出来上がるかわからないのに注文してくれて長い時間待ってくださるわけだから(笑)」
氏の持つ世界観が絶大なる支持を集め、その手腕に全幅の信頼が寄せられるからこそなし得る顧客との理想的な関係。氏は一貫して自身をメカニックと名乗り、産み出す創造物をマシンと呼ぶ。アーティストと作品では無く。ゆえに、マシンは人に操られて初めて命を宿し自由に伸び伸びとその翼を広げ羽ばたくことで完結する。創造の原初から明確にこのイメージが氏の頭の中にあるからこそ、産み出される数々のマシンの動姿がかく美しく、世界中の人々の心を掴んでやまないのであろう。
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