導かれるべくしてやって来た
《フォルクスワーゲン・ID.Buzz》に対する期待は大きい。その訳は、いつまで経ってもネガティブなままのEVへの印象を〈ID.Buzz〉は変えてくれそうな気がしているから。世界的にみてもEVにまつわる事業はどこも苦戦を強いられている。大規模な費用を投じたにも関わらず目前で頓挫したプロダクトも少なくない。一方で昨今の世界情勢をみれば、ガソリンを取り巻く環境には危機感があるにも関わらず、内燃機に回帰する傾向があるのはなぜなのだろうか? そんな中、〈ID.Buzz〉は導かれるかの如く、奇跡的なタイミングで市場投入を果たした。何より Buzz(バズ)というネーミングがいいではないか。この響きが持つ軽やかさとポジティブな空気感は、過去のレガシーに捕らわれがちなリバイバルモデルとは一線を画している。思い返せば、2000年代初頭にかけて次世代のワーゲンバスを謳ったコンセプトカーが何度もモーターショーで発表されながらも、量産化までには至らなかった。だが、2017年に発表されたコンセプトモデルは、以前とは決定的にリアリティが異なった。《テスラ・モデル3》のデリバリーがグローバルではじまり、EVシフトへの現実味が増したタイミングで、ダッシュボードにはAIのマスコットが搭載されるなど、単なるガソリン車の電動化ではなく「自動車」が「モビリティ」へと進化する姿を具現化していた。そんな〈ID.Buzz〉が満を持してプロダクションモデルとして登場した意義は大きい。さらに成熟したミニバンカテゴリーでひしめく日本市場にも投入されたことは喜ばしいことだろう。未だにラグジュアリー路線が著しい国内のミニバン市場で、〈フォルクスワーゲン〉らしい普遍的なデザインとオープンマインドなEVは、新たな選択肢になりえる。

3.11復興交流イベント『OKUMA ODYSSEY』は福島第一原発のある大熊町で行われる音楽フェス。同時開催となった「ゼロカーボンフェスティバル in おおくま」では、〈ID.Buzz〉とコンバートEVの《VW・タイプ1》をメインに次世代を担うモビリティとして展示。スチャダラパーなど注目のアーティストと共に会場で話題に。
ドイツ生まれアメリカ育ち
ドイツ車でありながら、どこか北米のモーターカルチャーを感じさせる存在感は、かつて「ラブ&ピース」の象徴でもあった〈VW・タイプ2〉のDNAを引き継ぐ証。シンボリックなツートンカラーを継承しつつも、あくまで現代の車として生まれ変わったその魅力は「電気で走る」という点にある。電気は私たちにとって最も身近なエネルギーであり、どのようにして電気を得るかは選択の余地がある。それを最も強く感じさせてくれたのは、福島第一原発のある大熊町で行われた復興交流イベント『OKUMA ODYSSEY』のこと。復興と未来に向き合った音楽フェスの会場で〈ID.Buzz〉は単なるEV以上の存在感を放っていた。会場では『ゼロカーボンフェスティバル』も同時開催され、コンバートEVの〈VW・タイプ1〉と共に最も目立つエントランスに展示。多くの来場者の関心を集めていた。こういった音楽フェスで違和感なく馴染めるのは〈ID.Buzz〉の持ち前のキャラクターに他ならない。あらゆるライフスタイルの垣根を越えていける類稀な存在といえるだろう。

背後に映り込むのは福島第二原発。廃炉予定は2064年とその道のりはかなり長い。
エネルギーに対するカウンターカルチャーが今こそ必要
未だ3%にも満たない日本のEV普及率の中で、電気自動車が普及するには、より多くの電力が必要となるだろう。そうすると原発再稼働への議論が巻き起こるのは必至。ただやはり、福島県大熊町の福島第一原発を取り巻く課題をみても、まったく先が見えていない現実がある。一方で、隣町の浪江町では、メガソーラーによる再生可能エネルギーの取り組みも始まっている。メガソーラーにも課題は多く存在するが、仮にソーラーで発電した電力で〈ID.Buzz〉を走らせる発想は、まだ太陽光の発電能力に限界があるといっても決して無理ではないはずではないだろうか?もっと多くの人が、そんな未来に関心を寄せれば、少しずつ技術革新として動き出すようには思えてならない。〈ID.Buzz〉は、かつて〈VW・タイプ2〉がカウンターカルチャーを牽引したように、多くの人々に望むべき未来を気づかせてくれるポテンシャルを秘めている。

福島原発近くの浪江町にあるメガソーラー
今回の〈ID.Buzz〉のテストドライブは、夏と冬にそれぞれ1000km近く実施。ボディサイズからは想像できないほど俊敏な走りや必要にして十分な航続距離で特に不自由することはなかった。中でも伊豆まで海水浴に行けば、現地のローカルに人気者になったり、空冷ポルシェと混じってラリーに参加したりと、テストながら思い出深いエピソードが多かった印象がある。一方で、まだまだ一歩な点もある。大容量バッテリーを搭載したEVでありながら外部給電機能が備わっていない点や、スマホと連動した専用アプリはなく、遠隔から何かしら車にアクセスすることもできない。もっといえば当初のコンセプトモデルにあったAIのキャラクターは見当たらず、あと一歩、「モビリティ」になり切れていないように思える。ただ、やはりそんな点をみても〈ID.Buzz〉には、なぜだか期待してしまう。完璧でないにせよ、一緒にいたくなるようなピースフルなキャラクターを持ち合わせているからだろう。
☑︎#8|VOLKSWAGEN ID.Buzz
★★★★★☆☆☆☆☆:INNOVATION(革新性)
★★★★★★☆☆☆☆:FEELING(フィーリング)
★★★★★★★☆☆☆:DESIGN(デザイン)
★★★★★★☆☆☆☆:PERFORMANCE(運動性能)
★★★★★★☆☆☆☆:SUSTAINABLE(環境性能)
★★★★★★☆☆☆☆:UTILITY(ユーティリティ)
★★★★★☆☆☆☆☆:VALUE(コスパ)
★★★★★★★☆☆☆:RECOMEND(レコメンド)
〔BRAND〕フォルクスワーゲン
〔MODEL〕ID.バズ
〔POWER〕210kW (286PS)
〔BATTERY〕84kWh(ID.Buzz Pro)/91kWh(Pro Long Wheelbase)
〔PRICE〕¥8,889,000〜(ID.Buzz Pro)/¥9,979,000〜(Pro Long Wheelbase)
〔TEST DATE〕:2025年8月8日〜18日(ID.Buzz Pro)/2026年3月12日〜17日(ID.Buzz Pro Long Wheelbase)
〔LOCATION〕:東京都内/静岡県伊豆市/福島県大熊町/千葉県南房総










