これはアンチテーゼなのか?
サラブレッドのような出で立ちの生粋のスポーツカーに比べ、《ルノー・サンク ターボ》は明らかに異質だ。フロントフェイスこそ、フランス車らしく端正だが、リア周りはその様子が一変。異様なまでに張り出したリアフェンダーは、小さなボディに対して、明らかに不釣り合いなほど筋肉質でカスタムカーのようだが、れっきとした《ルノー》が世に送り出したオリジナルのプロダクションモデル。大衆車を、ここまで奇想天外に生まれ変わらせたのは、なぜだろうか?
その背景には「WRC(世界ラリー選手権)」がある。1980年代当時、ラリーに限らず多くの自動車メーカーはモータースポーツを、エンジニアリング力を競う重要な舞台としていた。中でも市販車をベースにしたマシンでレースで勝つため、各社はホモロゲーションモデルを次々と市場へ投入。《ルノー》もまた、レースに勝つためのマシンを模索していた。そんな中、選ばれたのが〈ルノー・サンク〉だった。当時の《ルノー》は、《アルピーヌ》や《ゴルディー二》といったモータースポーツブランドを傘下に納めながらも、あえて最も大衆的な〈サンク〉を選んだのは、F1で培ったターボ技術を広く世に知らしめるためだった。そこで、もともとフロントにあったエンジンは、リアシートを廃してミッドシップにレイアウト。さらに駆動方式は「FF」から「MR」となり、大きく張り出したリアフェンダーは、ターボ化によって生み出された強烈なトランクションを如何なく路面に伝達するためだった。もはや〈サンク〉という名前を残しているだけで、中身は別の車と言っていい。初期の〈サンク ターボ〉は、WRC参戦のホモロゲーション取得のために400台が生産。その初期型モデルはアルミを多用し1トンにも満たない軽量なボディに、前衛的なインテリアが際立つ。そのスタイリングを手がけたのは、イタリアのカロッツェリア「ベルトーネ」が担当。当時、《ランボルギーニ・カウンタック》をデザインしたマルチェロ・ガンディーニが在籍しており、独特な造形を導き出している。これは、もしかするとスポーツカーへのアンチテーゼだったのかもしれない。

フレンチブルーの最初期の〈ルノー・サンク ターボ〉。取材車はホモロゲーション用に生産されたわずか400台うちの12番目の車両。
走りも別物
登場から40年近く経っても〈サンクターボ〉のインパクトは色褪せていない。日本へは正規輸入はされていないため、実車を取材できるチャンスは極めて少ないが、幸運にも初期の〈サンク ターボ〉の取材に成功。車内に乗り込んでまず目を奪われるのは、他に類をみないインテリアだろう。なかでもL字型のステアリングのデザインは、一見すると奇抜だが、乗り慣れてくると丸い穴へ親指を引っ掛けると操舵がしやすい。往年の《シトロエン》に一本スポークのステアリングがあるように、フランス車には視覚的に常に目に入り、手に触れる部分だからこそ、独特な造形を好むのだろうか。
走り出してすぐに感じるのは、その軽さだ。アクセルを踏めば、シートの背後からリア荷重の加速がやってくる。見た目とは裏腹にモーターサイクルに乗っているような感覚に近い。さらにアクセルを踏み込めば、さらなる加速が強烈なターボブーストとなって味わえる。すぐ背後から感じる振動と太いエンジン音は、ミッドシップであることを実感させ、5速マニュアルのシフトフィーリングは、1速から2速への変速こそやや慎重さを求められるが、小ぶりなシフトノブは手に馴染みやすく、操作感をダイレクトに味わえる。DRIVETHRUのテストカーに《ホンダ・シティ ターボII》があるが、持ち前のドッカンターボは、FF駆動のため、フロントを引っ張られたかのような感覚がある。一方、MRの〈サンク ターボ〉は、挙動がまるで違う。コーナリングでは、背後から迫り来る強烈なパワーを特徴的なステアリングの穴に親指をひっかけながら、向きを修正していく快感が確かにある。ドライバーは無我夢中で車と向き合い、ターボの効きがドライブを異次元なものにする。大衆車をベースにしながらも、スポーツカーとは異なるアプローチで、速さと楽しさを大胆な発想で生み出した〈サンク ターボ〉。小さなボディに大きく張り出したリアフェンダーも、背後から響くエンジンや強烈なターボも、そのすべてが普通の〈サンク〉からは想像できない。このギャップこそが、ホットハッチの面白さなのだろう。今も多くの人を惹きつけてやまないのは大いに理解できる。
Special Thanks: YUKI YABUKAMI












